TOHO
COLUMN
東邦コラム
2025.06.25
その他
岩盤浴
休日、何もしたくない。でも「何もしない」って意外と難しい。
家にいれば洗濯物が目につくし、スマホを開けば“通知地獄”。誰かが人生を充実させている様子をSNSで見せつけてくる。
そんな時、私の逃げ場は決まっている。岩盤浴である。
岩盤浴の何が素晴らしいって、「ただ寝転がってるだけなのに、健康にいい」と公に認められているところだ。ダラダラしている自分を正当化してくれる数少ない聖域。
むしろ「もっと汗かいて!」「水分補給して!」と褒められるのだ。最高じゃないか。
入室直後は、「あれ?意外と暑くないかも?」なんて余裕ぶっているが、10分後には汗が顔を伝い、「え、私の中にこんなに水分あったっけ?」と心の中で動揺している。
最近は“推し岩盤浴”という概念もあるらしく、遠方まで通うファンもいるという。私も密かに「ここの石が一番汗出る」と思っている岩盤浴場がある。何が違うのか説明はできない。
ただ、寝た瞬間に「あ、今日もすべてを流せそう」と思える、そんな“相性の良さ”があるのだ。
面白いのは、岩盤浴に来ると人間のプライドが全部脱げること。肩書きも年収も、全部どうでもよくなる。ただの汗だくの生き物になる。
もはやそこは“社会から隔離された動物園”である。
そして最後、クールダウン室でぼーっと天井を見上げながら、「来週からダイエット頑張ろう」「ちゃんと寝よう」と、決まって反省モードに入る。
岩盤浴は、ただ汗をかく場所じゃない。日々のストレスと、ちょっとの羞恥心と、いらないプライドを、ぜんぶ置いて帰ってくる場所だ。
現代人にこそ必要な、“何もしない時間”をくれる場所。今日も私は、タオルを握りしめ、またあの石の上に寝転がる。